臨界事故の徹底した調査を求める
原子力安全委員会委員長 佐藤一男殿
ウラン加工工場臨界事故調査委員会委員長 吉川弘之殿
1999年12月23日
JCO臨界事故総合評価会議
代表 古川路明
私たち原子力資料情報室および原水爆禁止日本国民会議(原水禁)は、「JCO臨界事故合評価会議」(以下「評価会議」)を12月10日に発足させ、独自の調査を進めている。 評価会議は、原子力安全委員会ウラン加工工場臨界事故調査委員会(以下「委員会」)がさらに調査を続け、十分な解析、検討を加え、国際的な評価に耐える報告書を作成することを強く希望する。
委員会は、10月8日の第1回会合以来現在までに10回の会合を重ね、年内に報告書をまとめようとしている。報告書の内容については、第10回の委員会において配布された「報告書(案)」(資料第10─4─1〜3号)や、委員会の傍聴から判断する限り、十分な調査と検討が行われたとは考えられない。
「報告書(案)」の中で、事故の状況をまとめた「II.事故の全体状況」は、その内容があまりにも乏しく、日本の原子力史上最悪の臨界事故の全貌を十分に解明しておらず、このような不十分な報告では、科学的・技術的評価に耐えうるものとは考えられない。それ以外の章のほとんどは今後の対策などの記述に費やされているが、臨界事故の検証が不十分なために、根本的な問題点の指摘にもなり得ていない。
以下、「II.事故の全体状況」について、評価会議が取り上げた問題点について述べる。
1.核分裂の総数とその時間変化等について(添付資料1を参照)
核分裂数については、第5回委員会で配布された「(株)ジェー・シー・オー東海事業所の事故の状況周辺環境への影響について」(資料第5─2号)の「参考1」に初めてその内容が公表されたが、その裏付けとなった測定値およびそれに関する解析内容は不十分であった。ところが、第9回の委員会で公表された「(株)ジェー・シー・オー東海事業所の事故による周辺環境の線量評価(基礎資料)の見直しについて」(資料第9─3号)では、上記「参考1」とは異なる中性子線測定に基づく時間変化が示されている。これは、前の結果とは全く異なるものであり、両者の矛盾についてきちんとした説明が行われるべきだが、そのような趣旨の記述はどこにも見あたらない。
核分裂の総数については、(2.5±0.1)×1018とされているが、この±0.1という誤差の算出について疑問があり、おそらく小さく見積もられすぎているだろう。
2.放出された放射性物質について(添付資料2を参照)
今回の事故においては、放射線(中性子線)による人体への影響が放射能(放射能物質)による影響より大きい可能性は高い。しかし、環境への放射能放出も決して無視できないような量であったことが多くの測定から確認されている。にもかかわらず、「報告書(案)」の放射能の記載内容は、採取・測定の時刻や総量に関する見積もりがなく全く不十分である。
沈殿槽内の溶液の採取と分析によって、多くの情報が得られるはずであるが、溶液の徹底した分析はなされていない。これから実施できる分析も多いのである。溶液分析の底した分析と解析結果の公開を望みたい。
以上に、調査すべき内容のごく一部について問題点を記したが、他にも臨界状態がどのように発生し、なぜどのような条件によって継続されたのか具体的な事故の再現ができていないことなど、疑問は多い。このような調査不十分な段階で報告書がまとめられることは、委員会が十分な機能をしていないことの表れである。
今回の事故の重要性を考え、かつ事故の内容について海外からの関心も高いことを考えあわせれば、この時点で委員会の職務を終えることは不適当といわざるを得ない。
添付資料1.核分裂総数とその時間変化等の評価について
JCO臨界事故総合評価会議メンバー 伊東良徳
1.総核分裂数について
a.はじめに
委員会は沈殿槽中のウラン溶液の分析と転換試験棟外部の冷却機室外機のステンレスネットの放射化分析から総核分裂数を2.5×1018と評価している。
b.ウラン溶液の分析の問題点
しかし、沈殿槽中のウラン溶液試料は採取時に撹拌がなされず、1回しか採取されず、採取場所も中央付近の1ヶ所だけである。委員会に科学技術庁が提出した資料第5−2号ではこのウラン溶液試料の代表性について種々の言い訳をしているが、100の言い訳を積み上げるより再度の試料採取の方がはるかに説得力があり科学的である。現在では沈殿槽中のウラン溶液は処分のために抜き取り作業が終わりステンレス容器に保管されている。再度の試料採取への障害は何一つない。にもかかわらず、委員会では再度の試料採取を全く検討せず、貴重な証拠であるウラン溶液の処分を急いでいる。このような姿勢は証拠隠滅を図っているとさえ疑われる。
ウラン溶液からの核分裂数の分析は4核種でよく一致しているとされているが、分析では核分裂数評価に使用する予定であった143Ce、144Ceが同定できず、それ以外でも核分裂数評価に有用な132Te、141Ceもピークが検出されながら測定結果が出されていない。これらの核種については(殊更にデータが隠されているのでなければ)拙速な測定を行ったために同定できなかったものであり、試料の濃度を薄めて時間をかけて測定するか、他の核種の減衰した後に再測定すれば十分にデータを得ることができるものである。
その意味でウラン溶液試料の代表性(ウラン溶液の平均的なサンプルといえるか)への疑問、核分裂数評価に用いる核種の数の両面から再度の試料採取が必要である。
c.ステンレスネットの放射化分析の問題点
核分裂数の評価に補足的に用いられた金属試料の放射化分析でも室外機のステンレスネットでは転換試験棟の壁等の遮蔽物を模擬して中性子の散乱を計算することになるが、転換試験棟内にも金属試料はたくさんあり、それらの金属試料の方が模擬すべき遮蔽物が少なくなり、計算の信頼性も高まるはずである。とりわけ事故が発生した仮焼還元室にはステンレスバケツ、ステンレスビーカー等のステンレス試料があり、放射化分析がより容易である。しかるに委員会ではこれらの試料について放射化分析をせずあるいはその結果を公表しないまま最終報告を出そうとしているのである。
2.「理論的な基礎資料」について
a.はじめに
委員会では、事故の規模、態様、放出放射線量、住民の被曝量の算定等の最も重要な事実評価に関する部分について、第5回会合で配布された分析(資料第5−2号。参考1ないし4を含む)にもとづき、第9回の会合でこの資料第5−2号のプラトー部の評価をそのままにしてプラトー部とバースト部の比率だけを見直して住民の被曝線量評価を切り下げ(資料第9−3号)、この資料第9−3号によって見直された資料第5−2号を「理論的な基礎資料」としてこれを前提として最終報告書をとりまとめようとしている。しかし、その資料第5−2号及び資料第9−3号には以下のような問題点を指摘することができる。
b.資料第5−2号の概要
資料第5−2号は、周辺での中性子線等による実効線量当量を、中性子線の時間的推移を第一加工棟粉末貯蔵室のγ線エリアモニターのデータのみに基づいてモデル化し、距離的な分布を9月30日20時45分頃に行われた測定に依拠してモデル化し、中性子線量当量の測定からのプラトー部の核分裂数の推定を沈殿槽から
250 m 離れた事務棟2階に同日23時15分におかれたレムカウンターで翌日午前1時58分頃から行われた(正確にはその点は資料上不明確である)測定データのみから先程の時間的推移のモデルに当てはめて計算し、核分裂総数を沈殿槽から採取したウラン溶液の分析と転換試験棟外部の冷却機室外機のステンレスネットの放射化分析から推定して、このプラトー部の核分裂数を差し引く形でバースト部の核分裂数を推定するという過程を経て推定しているものである。これらの推定は何段階かの仮定(モデル化)を経ており、しかも、それぞれの段階での推定の根拠となる資料が極めて少ない。
c.資料第5−2の問題点
総核分裂数評価に関するウラン溶液の分析とステンレスネットの放射化分析については前述した。
資料第5−2号の考察は時間的推移に関するモデルに依拠しているが、その元になるデータは第一加工棟粉末貯蔵室のγ線エリアモニターのデータのみに依拠している。γ線エリアモニターは転換試験棟内に2ヶ所、第一加工棟に3ヶ所、第二加工棟6ヶ所あるにもかかわらず、資料第5−2号で用いられた第一加工棟粉末貯蔵室以外のγ線エリアモニターのデータは全く公表されていない。またこの第一加工棟粉末貯蔵室のγ線エリアモニターのデータもそれまでは全く公表されておらず、資料第5−2号が提出されると同時に唐突にそれだけが公表されたものである。12月15日に行われた意見交換会において科学技術庁はデータ公開を約束したが未だに実現していない。またこの意見交換会の席上、資料第5−2号中で用いられているグラフに1桁以上の誤りがあることが指摘されて原子力研究所が粉末貯蔵室以外のデータのグラフであると釈明し、その次の委員会の第10回会合で第一加工棟仮焼室のγ線エリアモニターのデータが事故後25分間分だけ(生データではなく加工された形で)公開された。この仮焼室のデータは粉末貯蔵室のデータとは全く異なるカーブを描いている。
このようなデータ公表の経緯、他のデータが全く公表されないことから、結論にそうデータのみが選択的に公表されているとの疑いを持たざるを得ず、また最近公開された仮焼室のデータが大きく相違することからも第一加工棟粉末貯蔵室のデータの代表性に疑問を持たざるを得ない。
資料第5−2号は種々の仮定を経てかなり綱渡り的に距離別の1cm 線量当量を算出した後、最後に実効線量当量に換算するに当たり中性子の評価を小さくする古い換算係数(国際放射線防護委員会=ICRPの公報51)を使い1cm
線量当量の半分程度の数字にして住民の被曝を小さく見せている。しかし、ICRPの現在の換算係数(公報74)を用いれば中性子による被曝の実効線量は1cm
線量当量にかなり近くなる。公報51は法令上採用されているものであるが、被曝評価は科学の問題であり政治の問題ではないのであるから、当然に最新の知見によるべきである。
d.資料第9−3号による線量切り下げについて
資料第9−3号はJCOから 1.7 km 離れた原研那珂の中性子モニタリング(MP1)のデータのみからバースト部とプラトー部の線量比を求め、プラトー部の評価は正しいものとしてバースト部の線量を切り下げている。
しかし、事故現場から1.7 km 離れた MP1 のデータで最初の即発臨界バーストはともかく、その後の検出下限近辺のカウント数まで拾って線量比を算出することには疑問がある。少なくともこのようなやり方ではかなりの誤差を見込まざるを得ないのに、委員会は誤差評価をせず、この評価が正確なものであるかのように扱っている。
科学技術庁、原子力研究所は、資料第9−3号による再評価後も総核分裂数はそのまま維持しているが、そうだとすれば、プラトー部の核分裂数の評価(1.3×1018)は大きく誤っていたことになる。資料第5−2号の参考2ではこのプラトー部の核分裂数評価、バースト部とプラトー部の比の評価が正しいことを縷々論じていたが、これについてどこがどのように誤っていたのか、その誤りの理由は何か、再評価したバースト部とプラトー部の比についての従前の検証方法による裏付け等が説明される必要があるが、これらについての説明、論証は全くない。現状では資料第5−2号でバースト部に押しつけていた矛盾を資料第9−3号ではプラトー部に押しつけただけで全体としての矛盾のない説明はなされていないといわざるを得ない。
なお、実効線量等量への換算の際の換算係数に古い係数を用いて被曝を低く見せかけていることは資料第5−2号と全く同じである。
添付資料2.放出された放射性物質の量について
JCO臨界事故総合評価会議メンバー 古川路明
1.140Baの検出について
140Xe(半減期13.6秒)が短寿命なので、その崩壊生成物である140Ba(半減期12.8日)は本来の排気設備以外から漏れている可能性がある。
2.Kr同位体の娘核種について
90Kr(半減期3.15分)、90Kr(半減期32.3秒)、91Kr(半減期8.57秒)の娘核である89Sr
(半減期50.5日)、90Sr(半減期29.1年)、91Y(58.5日)を正確に測定して核分裂収率から予測される値と比較すればKrの放出に関する情報が得られるかもしれない。
3.137Csの定量について
137Csがどの程度残っているかはXeの放出と関連して重要である。原液を再測定して正確な数値を求めるべきである。
4.239,240Puについて
前に公表されたγ線スペクトルに239Npのピークが見えているようであり、239Puが検出できる可能性がある。239Pu/240Puの値が得られれば、事故の状況を知るのに役立つであろう。
5.91Srの検出について
91Srが1試料のみから検出されているが、この結果の信頼性については疑問があり、再検討を要する。
6.他の核種分析結果について
報告書(案)のII─19に示されている放射性物質濃度については、どの時点における値か特定されていない。91Sr(半減期9.6時間)、133I(半減期20.8時間)のような短寿命の放射性物質の測定については、時刻の特定のない測定値は無意味でさえある。
この表に示されている測定値には、他にも問題のある点が多い。環境中に存在する放射能について十分な知識を持つ専門家による再検討を要する。
7.放射能測定によるバースト部の核分裂数の推定について
バースト部の核分裂数に関する十分な情報が得られていない現状では、放射能測定に基づく解析も重要である。
重度被曝した3名の作業員の毛髪中に含まれる32P(半減期14.3日)の定量値の速中性子の強度、ひいてはバースト部の核分裂数に関する情報を与える可能性がある。32Pの測定が行われているとの記載も第8回委員会の配付資料中に見いだされる。測定結果を公表して欲しい。
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